Wednesday, August 3, 2011

IV.2. 実害に「風評被害」というレッテルを貼る

例1) 原子力損害賠償紛争審査会、汚染された稲わら(=実害)を「風評被害」として賠償を認める方針

「汚染牛の風評被害、16道県で賠償 紛争審方針 (asahi.com 2011年8月3日5時3分)(http://www.asahi.com/national/update/0802/TKY201108020691.html (last accessed 8/3/2011)

「東京電力の原発事故に伴う賠償の範囲を定める政府の原子力損害賠償紛争審査会は、汚染牛問題による風評被害について、汚染された稲わらの流通が確認された16道県の肉牛農家に、賠償を認める方向だ。5日に決める予定の中間指針に盛り込む。 
 
 風評被害による賠償を認めるのは、北海道、東北全県と茨城、栃木、群馬、埼玉、新潟、岐阜、静岡、三重、島根各県全域の肉牛農家ら。汚染の基準値を下回る稲わらが流通した千葉についても賠償を認めるかどうかを最終調整している。
 政府は2日、基準値を超える放射性セシウムが牛の肉から検出された栃木県産牛の出荷停止を指示。出荷停止は福島、宮城、岩手を含めて4県になったが、審査会はすでに、出荷停止にともなう損害は賠償対象と認めている。」(太字は投稿者)


投稿者コメント: 稲わらが汚染されたのは実害。なぜこれを「風評被害」と呼ぶのか? 原発事故の実害をできるだけ小さく見せようとしている?


例2) 実害を「風評被害」と言いかえるのは3.11原発事故以前から。

第1回原子力ルネッサンス懇談会 (2011年2月17日) 有馬朗人懇談会会長あいさつ

「4年前の中越沖地震で、柏崎刈羽の原子力発電所が、炉心にはなんら問題がなかったにもかかわらず、すさまじい風評被害、風評被害で、長期間運転がストップした」

http://www.youtube.com/watch?v=y7nS0RkRAFE&feature=player_embedded (last accessed 8/3/2011)

投稿者コメント:有馬懇談会会長によると、原発の実際の故障や不具合を指摘するのは、すべて「風評被害」ということになるらしい。。。

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2011年11月22日投稿

(小山真人静岡大学教授HP)「風評被害」と言ってはいけない http://sk01.ed.shizuoka.ac.jp/koyama/public_html/etc/opinion/jihyo52.html(2011年11月22日閲覧)

(全文を転載ー読みやすさのため段落の間にスペースを加えました。)(太字は投稿者)

(転載はじめ)

静岡新聞 時評(2011年11月掲載予定)

「風評被害」と言ってはいけない

  消費者を無視する最低の言葉

小山真人(静岡大学防災総合センター教授)

福島原発災害の発生以来、「風評被害」という言葉を報道で見聞しない日は無いくらいである。しかしながら、この言葉はきわめて不適切であり、廃すべきものである。その理由を以下に述べる。

近年の災害情報学の研究成果にもとづけば、「風評被害」とは、商品のリスクに対して不安を覚えた消費者の自粛行動が引き起こす経済的被害のことである。 風評とは悪い噂を意味するが、噂で広まった事例はほとんど確認できず、大部分は報道によって被害が拡大したことが知られている。

つまり、実際には風評による被害ではないのに「風評被害」と呼ばれるという自己矛盾がある。「風評被害」を防ぐためには、まずはこうした言葉使いから正すことが重要である。不正確な言葉と、それによる誤解を放置しておくと、その発生メカニズムや防止対策まで不明確になるからである。今後は「消費者の安全不信による経済的被害」などとストレートに表現するのが良い

「風評被害」の原因が消費者の不安・不信であり、それが報道によって広まると正しく認識することによって、その対策のヒントも見えてくる。まずは、行政や生産者による情報発信の姿勢と誠実さが厳しく問われるここに少しでも陰りがあると、たとえば伏せられたり丸められたりしたデータがあったり、一方的な 解釈を添えたり、検査方法・手順などについての十分な情報開示なしに安全宣言や安全キャンペーンなどをすると、それらはすぐに見透かされる。その結果、情報の受け手である消費者との信頼関係が損なわれ、消費者の不安・不信をさらに呼びおこして被害が拡大するという、逆の効果を引き起こすことになる。

仮にこの初期対応に失敗しても、やがて報道は下火になり、人々の記憶や不安も薄れていく。ところが、それを待たずに、じたばたと下手な対応や会見などを して、そのことが再び報道されると記憶の上塗りが起き、ついには容易に癒せぬ「負の烙印」となって商品ブランドの長期低迷をもたらすことがある。くれぐれ も注意すべきである。

「風評被害」という言葉は、より大きな問題も内包している。グレーゾーンの大きな放射能のリスクにさらされる中で、リスクのとらえ方は人によってさまざまである上に、要援護者や持病の持ち主、乳幼児など、小さいリスクであっても可能な限り避けたい人々もいる。行政や生産者にとっては「風評被害」であって も、当の消費者にとっては実害を未然に防ぐための正当な自己防衛であり、それを「風評被害」と呼ばれるのは全くの心外であろうそもそも「風評被害」とい う言葉の中には、「消費者は風評に惑わされる愚かな人々だ」という暗黙の決めつけも含まれている。要するに、「風評被害」は、行政や生産者の立場と解釈を一方的に押しつけるとともに、その原因までをも消費者に転嫁し、消費者の立場や感情を踏みにじる最低の言葉なのだ。この言葉を使い続ける関係者と、それを 無批判に垂れ流すマスメディアに猛省を望みたい。

(転載終わり)

 

 

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