文部科学省は、8月26日、福島県の学校の放射線量基準値について、従来の「毎時3.8マイクロシーベルト未満、年間20ミリシーベルト未満」を廃止し、「毎時1マイクロシーベルト未満、年間1ミリシーベルト未満」へと変更する「通知」を福島県などに出した。
その2日前、メディアは、新基準値に何ら疑問を持たず、基準値の変更を報じた。(下の(1)、(2)、(3)を参照) だが、メディアの報道からは、どう計算したら毎時1マイクロシーベルトが年間1ミリシーベルトになるのか説明できない。
例えば、 毎時1マイクロシーベルト X 24(時間) X 365(日) = 8.76 ミリシーベルト (年間)
文科省が4月に「毎時3.8マイクロシーベルト未満、年間20ミリシーベルト未満」を決めた時に使った仮定(一日屋外8時間、屋内16時間、屋内は屋外の4割の放射線量)を使っても、
(毎時1マイクロシーベルト X 8(時間)+ 0.4マイクロシーベルト X 16(時間)) X 365(日) = 5.256 ミリシーベルト (年間)
では、メディアが疑問を持たなかった、文科省の計算方式とは?
「学校への通学日数を年間200日,1日当たりの平均滞在時間を6.5時間(うち,屋内4.5時間,屋外2時間)」 (文部科学省からの福島県知事はじめ関係者への通知、『福島県内の学校の校舎・校庭等の線量低減について(通知)』 より)
つまり、「毎時1マイクロシーベルト、年間1ミリシーベルト」という基準値には、学校に行かない日、学校以外ですごす時間に子どもたちが浴びる放射線は全く無視されている、ということだ。しかも、「なお,仮に毎時1μSvを超えることがあっても,屋外活動を制限する必要はありませんが,除染等の速やかな対策が望ましいと考えられます。」 (文科省「通知」、太字は投稿者)
この学校放射線基準見直しの包括的な批判は下の(5)を参照してください。
(1)(共同通信)屋外活動で放射線量に新基準 政府、学校など除染支援 (2011/08/24 13:31)
http://www.47news.jp/CN/201108/CN2011082401000414.html (2011年8月27日閲覧)
政府が、小中学校や幼稚園での屋外活動制限の放射線量としていた毎時3・8マイクロシーベルトの基準を廃止し、毎時1マイクロシーベルトを新たな目安とし、学校などの除染を支援する方針であることが24日、分かった。
文部科学省は「年間1ミリシーベルトを目指す」とする目標を示しており、これに対応した措置。1ミリシーベルトは一般人の年間被ばく線量の限度とされる。近く開かれる原子力災害対策本部の会合で正式に決める。
政府は、国際放射線防護委員会の被ばく線量の基準に従い、これまで年間20ミリシーベルトを超えないように毎時3・8マイクロシーベルトと設定。しかし生徒・児童らの被ばく線量を年間20ミリシーベルトを目安に算定していたことに批判があった。
(2)(NHK)学校の放射線量に新たな目安 (8月24日 12時31分) http://www3.nhk.or.jp/news/html/20110824/t10015110761000.html (8月27日閲覧)
東京電力福島第一原発の事故を受けて示された学校での屋外の活動を制限する放射線量の目安について、文部科学省は年間の積算で20ミリシーベルト未満とする数値を廃止することを決め、新たな目安を年間1ミリシーベルト以下とすることを福島県に通知することになりました。
福島県の学校や幼稚園などの屋外での活動を制限する目安の放射線量については、文部科学省がことし4月、年間20ミリシーベルト未満、1時間当たり3.8マイクロシーベルト未満という数値を示していました。その後、福島県内の学校などでは、放射線量を 下げるために校庭の土を取り除く作業が進み、現在は、すべての学校で1時間当たり3.8マイクロシーベルトを下回っていることなどから、文部科学省はこの 目安を廃止することを決めました。そのうえで、夏休み明けは学校で子どもが受ける放射線量を原則として年間1ミリシーベルト以下とし、この目標を達成する ための新たな目安を1時間当たり1マイクロシーベルト未満にすることにしています。また1マイクロシーベルトを超えても屋外活動を制限する必要はないとしていますが、速やかに除染対策を行うことが望ましいとしています。文部科学省は新たな目安について今月26日にも福島県に通知を出して周知を図ることにしています。
(3)(読売新聞)学校の毎時3・8マイクロ・シーベルト基準廃止(2011年8月24日03時04分)
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20110823-OYT1T01169.htm (2011年8月27日閲覧)
政府は、学校での屋外活動を制限する放射線量としてきた毎時3・8マイクロ・シーベルトの基準を廃止し、今後は同1マイクロ・シーベルトを目安に校庭などの除染を進める方針を固めた。
基準線量が高すぎるとの批判や、福島県内外で独自に除染が進められている状況を受けたもので、事実上これまでの「安全 値」を見直す形だ。文部科学省は、子供が学校で受ける積算線量を年間1ミリ・シーベルト(1000マイクロ・シーベルト)以下に抑えることを目指し、除染費用を支援する。
(4)(毎日新聞)学校放射線量:毎時3.8を1マイクロシーベルト未満に(2011年8月26日 11時38分)
http://mainichi.jp/select/science/news/20110826k0000e040048000c.html (2011年8月27日閲覧)
文部科学省は26日、東京電力福島第1原発事故を受け福島県内の学校などで屋外活動を制限する放射線 量の基準値毎時3.8マイクロシーベルトを廃止し、校庭などで受ける線量の目安として毎時1マイクロシーベルト未満とする方針を同県など全国に通知した。 児童生徒らが学校で受ける線量は原則年間1ミリシーベルト以下に抑制する。毎時1マイクロシーベルトを超えても「屋外活動を制限する必要はない」とし、局所的に線量が高い場所の除染で対応する。
現状では政府の指示で住民が避難した地域以外で積算線量の予測値が年間1ミリシーベルトを超える学校などはなく、暫定基準値の役割が終わったと判断。夏休み終了後に福島県内の児童生徒らが学校で受ける線量は、通学日数200日、1日当たりの滞在時間6.5時間(屋内4.5時間、屋外2時間)の条件で、校庭などの線量を毎時1マイクロシーベルトとした場合、給食などの内部被ばくを含めても年間0.534ミリシーベルトとの推計を示した。
文科省は4月19日、国際放射線防護委員会(ICRP)の声明を参考に、夏休み終了までの放射線量の目安を年間1~20ミリシーベルトとし、上限値から逆算した毎時3.8マイクロシーベルトを超えた場合に屋外活動を1時間に制限する基準を設けた。だが、「影響を受けやすい子どもには高すぎる」と基準を批判した内閣官房参与が辞任するなど混乱が広がったことを受け、文科省は5月27日、基準を維持しながら、今年度に児童生徒らが学校で受ける放射線量について年間1ミリシーベルト以下との目標を新たに設定していた。【木村健二】
毎日新聞 2011年8月26日 11時38分
(5) NGO共同声明:文科省・学校基準見直しに関する声明
http://www.greenpeace.org/japan/ja/news/blog/staff/1/blog/36529/ (2011年8月27日閲覧)
NGO共同声明
2011年8月27日
文科省・学校基準見直しに関する声明
校庭の新「目安」毎時1マイクロシーベルト(年間約9mSv)は高すぎる
放射線管理区域(毎時0.6マイクロシーベルト)よりも高い「目」
学校給食の放射能測定を行い、内部被ばくを評価すべき
「学校内」に限定せずに、トータルな被ばく管理が必要
子どもたちを守るために、法定1ミリシーベルトの順守と避難・疎開の促進を
8月26日、文部科学省は、「福島県内の学校の校舎・校庭等の線量低減について」を発出し、校庭・園庭の使用目安を1マイクロシーベルト/時とすることを福島県等に通知しました。
私たちは4月19日に、同省が校庭等の使用基準3.8マイクロシーベルト/時(年20ミリシーベルトより算出)としたとき以来、この非常に高い基準 について撤回を求め、署名・交渉・要請行動などの活動を行ってきました。今回の通知によって3.8マイクロシーベルト/時(年20ミリシーベルト)は正式に廃止されることになりました。これは、あまりに遅すぎたものの、福島県内をはじめ、全国の市民の声および国際的な批判に応えざるを得なくなったためです。
しかし、新たな「目安」にも以下の大きな問題があります。
1.依然として高すぎる「目安」放射線管理区域(注1)は、毎時0.6マイクロシーベルトです。新「目安」の毎時1マイクロシーベルトは依然としてそれをはるかに超える値です。これを「目安」とする場合、年約9ミリシーベルトにもなります。
注1)放射性管理区域では、労働法規により、18才未満の労働は禁じられている。放射能マークを掲示し、子どもを含む一般人の立ち入りは禁じられ、厳格な放射線管理が行われ、事前に訓練を受けた者だけが立ち入ることのできる区域である(電離放射線障害防止規則など)。
2.学校外の被ばくを除外「年1ミリシーベルトを目指す」としつつも、学校外の被ばくを除外しています。子どもたちが学校で過ごす6.5時間だけを対象にして、通学時の被ばくなどは含まれません。
3.「内部被ばく」を考慮の対象としているが、給食の放射能測定はしない内部被ばくを考慮するとしたこ とは、一歩前進といえます。一方で、学校給食の放射能測定は基本的に行わず、一部の自治体による取組みに任されています。これでは内部被ばくを考慮したこ とにはなりません。既に、子どもたちの尿から放射能が検出され、内部被ばくに対する不安が高まっています。実際に食材の放射能測定を行わず、計算だけで内部被ばくを考慮しても、子どもたちを守ることはできません。
4.「目安」を超えても、野外活動を制限することもしない今回の文科省の通達では、校庭で1マイクロ シーベルトを超える箇所があることを認めています。それに対しては、「除染などの速やかな対策が望ましい」と一般的に語り、「仮に毎時1マイクロシーベル トを超えることがあっても、野外活動を制限する必要はありません」としてしまっています。単なる「目安」であり、子どもたちを放射能から守る実行力ある措置を伴わないものです。これでは子どもたちは守れません。
福島の子どもたちを守るためには以下が必要です。
・ 法定1ミリシーベルトの順守。線量が高い地域を「選択的避難区域」(注2)に設定し、住民が自らの判断で避難できる環境をつくること
・ サテライト疎開(注3)など、あらゆる知恵を動員して、抜本的な被ばく回避を行うこと
・ 学校内外および実際の内部被ばくも含めた形で、子どもたちの被ばく管理を行うこと
・ 内部被ばく低減を実現するために、給食の放射能測定を行うこと。食材の産地公表を行うこと
注2)住民が自らの判断に基づき避難を行うことを、正当な賠償の支払いや行政措置などにより保証していくこと
注3)学校や支所などを核とする疎開者コミュニティの形成により、福島県人として疎開地で福島人として暮らすこと
以上
子どもたちを放射能から守る福島ネットワーク
福島老朽原発を考える会(フクロウの会)
国際環境NGO FoE Japan
美浜・大飯・高浜原発に反対する大阪の会
グリーン・アクション
国際環境NGOグリーンピース・ジャパン