Friday, July 15, 2011

V.7. 交通事故死や生活習慣病との比較(タバコなど)

例)中川恵一准教授:「喫煙や飲酒、食べ物などの生活習慣の方が、はるかにがんの発生に関係する」

「安心して生活できるレベルです」 東京大学放射線科准教授・中川恵一さん
東京都江戸川区HP 『平成23年7月1日号 1面 放射線の状況をお知らせします』ページ
http://www.city.edogawa.tokyo.jp/chiikinojoho/kohoedogawa/h23/230701/230701_1/index.html (2011年8月31日閲覧)(太字は投稿者)

首都圏の空気中の放射線量は、ほぼ平時に近い数値に戻っており、新たに放出されている放射性物質はほとんどありません。国民のみなさんは、放射線を漠然と恐れていますが、問題となるのは発がんリスクの上昇だけです。

国際放射線防護委員会は、『積算100ミリシーベルトの被ばくで、がんの発生率が0.5パーセント上昇する』と推計しています。それ以下の低線量での被ばくについては、がんが増えるかどうか科学的に実証されていないため、たとえ、がんが発症しても、原因が放射線によるものなのか区別がつきません

これは、喫煙や飲酒、食べ物などの生活習慣の方が、はるかにがんの発生に関係するため、わずかな被ばくでは、ほかの要因の中に埋没してしまうためと考えられています。100ミリシーベルト以下の被ばくで『ここまでなら安全』という基準値を決めることは大変難しいとされています。しかし、10ミリシーベルト以下では、発がんが増えるとは考えられておらず、現在の江戸川区の放射線量は、安心して暮らせるレベルです


2011年8月31日投稿

東京大学緊急討論会「震災、原発、そして倫理」(2011年7月8日)で、中川恵一准教授は、「原発作業者の方は喫煙率が高いので被ばくの影響を独立して取り出すのが難しい」と発言した、と報告されている。

出典: 東京大学緊急討論会「震災、原発、そして倫理」 実況中継 (by 石村准教授)
http://togetter.com/li/159105

中川:原発作業者の方は喫煙率が高いので被ばくの影響を独立して取り出すのが難しい。gnsi_ismr 2011/07/08 15:01:01 


[参考資料]
(1)2011年8月1日、参議院東日本大震災復興特別委員会で、医師でもある古川俊治議員(自民)は、文部科学省が財団法人・放射線影響協会に委託して行った、約27万7千人の原発従事者の疫学的調査の報告書『原子力発電施設等 放射線業務従事者等に係る疫学的調査』(平成22年3月)を取りあげ、この報告書の中のデータについて、高木文科相に質問した。古川議員は、データは、累積線量が平均13.3mSVでも、放射線従事者の方が一般の人より多くがんに罹ったことを示している、と分析。だが、高木文科相は、「死亡率への影響の明確な証拠中はなかった」という、放射線影響協会による総合評価を繰り返した。
8.1 参議院東日本大震災復興特別委員会 古川俊治議員


http://www.youtube.com/watch?v=9S-oHfuZhTg (2011年8月31日閲覧)

[動画の14:30ごろから] (太字は投稿者)
古川議員 なぜ100mSV以下の低い線量の被曝のリスクがはっきりしないか? 今まで実際、ICRPも含めて、全然データがない。広島・長崎の原爆の後、チェルノブイリが一回会っただけ。当時、60年前の頃の科学的知見は充分ではなかった。チェルノブイリではなかなかモニタリングができなかった。実際にこうした原子力事故が起こったということは、殆ど世界にデータがない。まさにこの福島はそういう中で起こっているという認識を持っていただきたい。何もわかっていないのが現状。これから被災者は長期に低線量の被曝をしていくわけだが、長期低線量被曝の調査は、原発従業者を調べている彼らは長期に被ばくをする。各国でやられている。それでデータをとろうとする。この方法でなかなか評価が定まらないのは原発で働く方々がどっかに行っちゃう、フォローができない。そういう機構が一番整っているのは日本、戸籍制度がしっかりしているから。

日本には27万7千人ばかりを調査したりっぱな調査がある。文部省[ママ]の予算を使ってやっている。

原発従業者を、一般の人と比べると、がんのリスクは1.04倍。明らかに偶然では説明できない差をもって、放射線従業者のほうががんが沢山が発生している

放射線従業者の平均被ばく線量は累積で13.3mSV. 20mSV以下ですね

つぎの「内部比較」のデータは、放射線従業者のなかで、どのくらい被曝するとどのくらいがんが増えるかを見ている。被曝量が増えれば増えるほど、どんどんがんの発生が増えるということがいろんながんで認められる

こういうデータがすでに日本にある。累積線量が20や10ミリシーベルトでも、がんが増えてくる。

たばこや飲酒ががん発生に寄与する可能性も考えられる。だが、放射線従業者の間では、心筋梗塞とか消化性潰瘍などの、たばこの影響による他の疾患が増えていない。まさに、がんだけが増えている。飲酒の影響についても同じ。長期累積線量が20や10ミリシーベルトというレベルでも障害が起こっている
  
高木文科相、このデータについて検討することがありましたか、今まで?

高木文相: 本調査の結果においては、累積線量が20mSV以下を含め、低線量領域の放射線量ががんの死亡率に影響をおよぼしている明確な証拠は認められなかったと言える、という総合評価がなされております

古川議員: [この調査結果をみると]明らかにがんが増えている。そういう総合評価をした委員会はほとんど業界のひとなんですよ。調べてみました? みんな業界のひとですよ。たばこや飲酒との関連性が否定できないというレベルで、これを全部、結局「ない」という話をしているんですよ。これは、検討してないということじゃないですか、今大臣がおっしゃってることは。字面だけ見てるんじゃないですか? 明らかに差が出てますよ

[政府は]放射線による障害は100ミリシーベルトで問題になる、と言ってきているが、実際、確率的障害、これはみなさんが金科玉条のごとく言っているICRPも確率的障害は認めている、この前提に立っている。ということは、20mSVであれば20mSV相応のがん患のリスクが出るということ、これが科学的結論

報道によれば、過去にがんを発症して労災認定された原発労働者は10人で、最も少ないひとは、約5mSVの被曝だった。5mSV以上の被曝で、被曝後1年以内に白血病を発生すれば、労災認定される。これは、政府がある意味で因果関係を認めている、被曝との

(中略)

今まで政府は、20mSV以下で問題ないということで対応してきた。これをどう説明するのか?

高木文相: 厚生労働省の放射線被曝にかかる白血病の労災認定要件の一つには、相当量、これは5mSVX従事年数、放射線被曝をしたという事実、とある。これは、5mSVと放射線被曝と白血病との因果関係は証明されていないものの、労働者への補償に欠けるものがないように、幅広く救済するという観点から設定されたものであって、財団法人・放射線影響協会の疫学調査の結果と矛盾するものではない

 (以下略)

(2)影浦峡教授(東京大学大学院教育学研究科)の「研究ブログ」
   2011/07/14 東京大学緊急討論会「震災、原発、そして倫理」の論点のまとめ
http://researchmap.jp/jofyhubfm-111/?block_id=111&active_action=journal_view_main_detail&post_id=12190&comment_flag=1 (2011年8月31日閲覧)

2011年10月22日投稿
電気事業連合会が2011年9月、新たなPR誌『Enelog』を刊行。その創刊号に、中川恵一准教授のエッセイが掲載されている以下、全文を転載。(強調は投稿者)

中川恵一 「低線量被ばくの”不確実性”と宇宙の”超越性”」

低線量被ばくに対する恐怖が広がっています。たしかに被ばく線量が上がると発がんが増えますが、これは主に、広島・長崎の 原爆被爆者を調査したデータに基づいています。チェルノブイリなどの過去の原発事故のデータは、原爆の調査研究ほど役に立ちません。飯舘村に測定に入った際にも経験したことですが、原発事故の場合、空間線量は、風や雨といった天候や、地形、地面の性質などによって、大きく変わるため、線量計を常時携帯しな いかぎり、住民個人の被ばく量を正確に把握できないからです。

一方、原爆の場合は、被爆の瞬間にいた場所だけで浴びた線量がほぼ決まりますから、住民の発がんの有無 を調べれば、線量と発がんの関係について、精度のよいデータが得られるわけです。そして、これまでの分析の結果、100ミリシーベルトの被ばくで、がん死亡率は約0.5%増加し、この値以上の被ばくでは、線量が増えるとともに「直線的に」リスクが上昇することが分かっています。

しかし、100ミリシーベルト以下の被ばくでがんが増えるかどうかについては分かりません。これは、喫煙や飲酒の他、野菜嫌いや、運動不足、塩分の摂りすぎ、といった生活習慣上の発がんリスクが、放射線とは比べものにならないほど高いからです。たとえば、 喫煙で、がんによる死亡リスクは16倍くらいに上昇しますが、これは、2000ミリシーベルト!の被ばくに相当します。受動喫煙でも、100ミリシーベル ト程度にあたります。低線量被ばくのリスクは、他の「巨大なリスク群」の前には、「誤差の範囲」といえる程度と言えるため、100ミリシーベルト以下の被ばくで発がんが増えるかどうかを検証するためには、膨大なデータ数が必要になるのです。

低線量被ばくで発がんが増えるかどうかは分かっていませんが、100ミリシーベルト以下でも、安全側に 立って、線量とともに直線的に発がんも増えると想定する“哲学”あるいは“思想”が、国際的な放射線防護の考え方で、「直線しきい値なしモデル」と呼ばれています。しかし、このモデルを採用すれば、自然被ばく(約1.5ミリシーベルト)や医療被ばく(約4ミリシーベルト)が存在する以上、どんな人も“グ レーゾーン”にいることになります。“純白”は存在しませんから、安全の目安は住民を中心に社会が決めるしかありません。しかし、「白か黒か」のデジタル 的「二元主義」がグレーを受け入れる妨げになっています。また、徴兵制や内戦、テロにも無縁な現代日本人が、「ゼロリスク社会」の幻想を抱いてきたことも背景にあるでしょう

福島第一原発事故で、発がんの増加は検出できないと私は思っています。しかし、被ばくを避けようとするあまり、家に閉じこもって運動をしなかったり、輸入牛肉ばかり食べて、野菜や魚といった日本人を世界一長寿にした食事のスタイルを放棄すれば、かえって、 がんを増やすことになります。また、子供を外で遊ばせるかどうかで諍いを繰り返し、離婚にいたった夫婦も、現にいます。避難を強いられている方々はもとよ り、この事故が日本人に与える不幸の積算量は甚大です。

セシウム137の30年という半減期は、どんな最先端技術をもっても変えることができない「超越的な」ものです。半減期45億年(ウラン238)といった宇宙レベルの存在を人間が扱えると信じたところに人間の驕りがなかったか、省みる必要があると思います。

http://www.fepc.or.jp/enelog/voice/vol1.html (2011年10月22日閲覧)



以下に、「Enelogについて」のページ全体を転載  http://www.fepc.or.jp/enelog/about/index.html (2011年10月22日閲覧

現在、原子力発電の位置付けや再生可能エネルギーの普及を含む今後のエネルギー政策に関する議論が行われており、エネルギー全般への関心が高まっています。
そこで、電気事業者の取り組みや今後の方向性などをご紹介し、より一層のご理解につながればとの思いから、電気事業連合会では新たに定期刊行「Enelog」を創刊いたしました。
それに合わせて、Webマガジン「Enelog」では誌面での情報はもとより、掲載しきれなかったこぼれ話や動画などのオリジナルコンテンツをご用意していきます。
Enelogが、今後のエネルギーの在り方を考えるうえでの一助となれば幸いに存じます。
「Enelog」は「Energy(エネルギー)」と「Dialog(対話)」からなる造語で、これからのエネルギーについて皆さまと一緒に考えたいとの願いを込めております。
2011年9月


2011年10月24日投稿

(1) たね蒔きジャーナルによる、「柏の子供達を放射能汚染から守る会」代表の大作ゆきさんのインタビュー (2011年10月13日) 

 録音と説明「柏の子供達を放射能汚染から守る会」活動休 (2011年10月24日閲覧)


上のSAFECASTさまのサイトから、全文を転載させていただきます。(太字は投稿者)

(転載はじめ)
千葉県柏市の市民グループ「柏の子供達を放射能汚染から守る会」は、 活動を一時休止することを決めました。代表の大作ゆきさんは、2人の子供が鼻血を出し始めて以降、九州へ避難を行いました。他の中心メンバーも九州への移住を考えており、すでに10人が引っ越しを行いました。(上の動画は大作さんのラジオでのインタビューを収録したものです)

5月に、柏市長は「放射能の影響を心配するのは、心理的な問題の一種である」とブログに書き込んでいます。元々柏市には、市民から高い放射線レベル の報告を受けるまで、何ら調査を行う計画はありませんでした。大作さんのグループは、1万人の署名を100人を擁する議会に提出しました。これにより、柏市は学校における放射線レベルの調査を始めることになりました。

しかしながら、グループの活動や大作さんの子供を連れての九州への引っ越しは、彼女の家族に大きな問題を引き起こしました。大作さんの義理の家族は、行政への反抗や(グループのリーダーであるために)名前が報道されるようなことを好みませんでした。いまやこの親類たちは大作さんに離婚を求めるまでになりました
大作さんは、「一般に中高年の人たちは、情報源として新聞に書かれていることを絶対視し、書かれていないことは真実だと思わない」と言います。(新聞を含む)主要メディアは、放射能の健康への影響を最小限しか報道せず、政府によって「調整」された放射線レベルだけを報じています

読売新聞は、「千葉のホットスポットに関する情報は間違った噂によるもので、それらは存在しない」と5月に書いています。(ウィキペディアによる と、「読売新聞の以前の社主である正力松太郎(しょうりきまつたろう)は、元CIAのエージェントで、日本の原子力の父である」とのこと)
彼女の親族は読売新聞の報道を信じているという。日本では、インターネット上で情報を集めないと、放射能問題で何が実際に起こっているのかは分からない。

大作さんは、放射能の問題での意見の衝突は、原発問題それ自体よりも難しいという
彼女の周辺の人たちは、この問題について考えないことを選び、問題を大きくしないで欲しいと思っている。グループのメンバーの何人かは、「変人」と笑われるのにも疲れ果てた。
守る会は、除染を望んでいるが、ホットスポットにいる他の人たちは、お金の無駄と考えている。「心配するのをやめよう。福島の人たちのことを考えろ。かれらはもっと悪い環境のところで暮らしているんだ。」 
(転載終わり)

 投稿者から: 放射能の健康への影響を低く見積もり、その意見を大手新聞やテレビなどで広めている中川恵一氏のような専門家は、「柏市の子どもたちを放射能汚染から守る会」の人たちがこうむっている苦しみに対して責任はないのだろうか? たとえご本人は善意で発言していたとしても、自分の意見が客観的に持ってしまう効果を考える必要は、広く社会に向けて発言する専門家にないのだろうか? それとも、中川氏がエッセーで言うように、「グレー」を受け入れられない人こそが問題だとでも言うのだろうか?

(2)千葉・柏市高放射線量検出問題 福島第1原発事故に由来する放射性物質が蓄積の可能性 (2011年10月24日) http://headlines.yahoo.co.jp/videonews/fnn?a=20111024-00000098-fnn-soci(2011年10月24日閲覧)(全文転載)

フジテレビ系(FNN) 10月24日(月)0時38分配信
千葉・柏市の空き地から高い放射線量が検出された問題で、文部科学省などが23日に現地調査を行った結果、福島第1原発事故に由来する放射性物質が蓄積した可能性が高いことがわかった。

柏市根戸の空き地から、最大で1時間あたり57.5マイクロシーベルト(μSv)の高い放射線量が測定され、土から1kgあたり最大で27万6,000ベクレルの放射性セシウムが検出されたことなどを受けて、文部科学省などは23日、現地調査を実施した。
その結果、現場の土にかぶせている防水シートの上で、最大で1時間あたり15マイクロシーベルトの線量が測定された。

また、現場にある深さおよそ30cmの側溝が、およそ50cmにわたり破損していて、その場所から、福島第1原発事故による放射性セシウムを含んだ雨水などが漏れて、土壌に蓄積された可能性が高いことがわかった。

付近の住民は「原因を追究して、早いところ撤去するなり、対応してもらいたい」と話した。

文部科学省などは今後、柏市と協議したうえで、除去作業など具体的な対策を取っていくという。
最終更新:10月24日(月)6時42分
(全文転載終わり)
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2011年11月20日投稿

2011年5月25日の『毎日新聞』夕刊に、中川恵一氏の「崩壊した『ゼロリスク社会』神話」という題名の文章が掲載された。この文章は 『毎日新聞』の電子版、『毎日jp』にも掲載されていたが、7月29日に投稿者がアクセスしようとした時にはすでに削除されていた。 東日本大震災:福島第1原発事故 崩壊した「ゼロリスク社会」神話=中川恵一

この文章の中で中川氏は、放射線のリスクは喫煙以下、という持論とともに、次のように書いている:「今回の原発事故は、私たちが『リスクに満ちた限りある時間』を生きていることに気づかせてくれたと も言える。たとえば、がんになって人生が深まったと語る人が多いように、リスクを見つめ、今を大切に生きることが、人生を豊かにするのだと思う。」(太字は投稿者)

中川氏の文章の写真と全文がみどりの一期一会様のHPに掲載されています。以下に全文を転載させていただきます。 

(転載はじめ)  

とても容認できない中川発言!/福島第1原発事故 崩壊した「ゼロリスク社会」神話=中川恵一 

東日本大震災:福島第1原発事故 崩壊した「ゼロリスク社会」神話=中川恵一 

◇放射線被ばくの試練、プラスに

これまで日本は「ゼロリスク社会」だといわれてきた。この言葉は「(生存を脅かす)リスクが存在しない社会」ではなく、「リスクが見えにくい社会」を意味する。そもそも生き物にとって、死は最大のリスクといえる。私たちに「リスクが存在しない」はずがないのだ。

たしかに、急速な近代化や長寿化など、さまざまな要因が重なった結果、私たちはリスクの存在に鈍感になっている。日本人の半数が、がんになるというのに 「がん検診」の受診率は2割程度(欧米は8割)にとどまる。根底には、私の恩師の養老孟司先生も指摘する「死ぬつもりがない」といった歪(ゆが)んだ死生 観があるのではないかとも思う。

しかし、ときに「垣間見える」リスクに対して、日本人は過敏な反応を示すことがある。たとえば、抗菌グッズやアンチエージングが大人気なことが代表的な例だろう。リスクへの、こうした両極端な反応は、まさにアンバランスだ。

今回、東京電力福島第1原発の事故で、突然降ってわいた「放射線被ばく」というリスクに、日本全国が大騒ぎをしている。この社会に「リスクなどない」と「信じてきた」日本人にとって、まさに青天のへきれきのようなものなのだろう。

放射線被ばくのリスクは、一言で言えば「がん死亡率」の上昇だ。200ミリシーベルトの被ばくで、がん死亡率は最大1%程度上昇する可能性があると考え られている。しかし、私たちの身の回りには、放射線以外にも「がん死亡率を高める」リスクが存在する。たとえば、野菜は、がんを予防する効果があるが、野 菜嫌いの人の発がんリスクは100ミリシーベルト程度の被ばくに相当する。受動喫煙も100ミリシーベルト近いリスクだ。

また、肥満や運動不足、塩分摂(と)りすぎは、200~500ミリシーベルトの被ばくに相当する。たばこを吸ったり、毎日3合以上のお酒を飲むと、がん 死亡のリスクは1・6~2倍上昇するが、これは2000ミリシーベルトの被ばくに相当する。つまり、放射線被ばくのリスクは、他の巨大なリスク群の前には 「誤差の範囲」といえる程度だ。特に、100ミリシーベルトより少ない放射線被ばくのリスクは、他の生活習慣の中に“埋もれて”しまい、リスクを高めるか どうかを検証することができないとされている。

ただし、喫煙や飲酒などは(リスクと知らない場合も多いかもしれないが)、“自ら選択する”リスクといえる。一方、原発事故に伴う放射線被ばくは、自分 の意志とは関係ない“降ってわいた”リスク。放射線被ばくは自分では避けられないという意味で、受動喫煙に近いタイプのリスクといえるだろう。

「ゼロリスク社会・日本」の神話は崩壊した。しかし、今回の原発事故は、私たちが「リスクに満ちた限りある時間」を生きていることに気づかせてくれたと も言える。たとえば、がんになって人生が深まったと語る人が多いように、リスクを見つめ、今を大切に生きることが、人生を豊かにするのだと思う。日本人 が、この試練をプラスに変えていけることを切に望む。(なかがわ・けいいち=東京大付属病院准教授、放射線医学)

毎日新聞 2011年5月25日 

(転載終わり) 

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