憲法で保障されたさまざまな私権の制限を可能にするこの法案には、日本弁護士連合会と日本ペンクラブが反対声明を出していたほか、日本医学会なども慎重な審議を求めていた。
そうした批判を配慮してか、内閣委員会は「人権が過度に制限されることようがないようにすること」などを織り込んだ「附帯決議」を採択したが、附帯決議には法的効力はなく、また、読みようによっては、ある程度の人権の制限は仕方がないと言っているようにも聞こえる。
【新型インフルエンザ等対策特別措置法】
「新型インフルエンザ等対策特別措置法案」 http://www.cas.go.jp/jp/houan/120309influenza/houan_riyu.pdf
**内閣官房サイトで法案の「概要」「要綱」「法律案・理由」などを見るには、こちらへ。
http://www.cas.go.jp/jp/houan/index.html
参議院内閣委員会「新型インフルエンザ等対策特別措置法案に対する付帯決議」(平成24年4月24日)http://www.sangiin.go.jp/japanese/gianjoho/ketsugi/180/f063_042401.pdf
**「附帯決議」の法的効力について
参議院HPの「参議院のあらまし 委員会の活動(1)法律案の審査」ページから抜粋 (太字強調は投稿者による)http://www.sangiin.go.jp/japanese/aramashi/keyword/katudo01.html
附帯決議とは、政府が法律を執行するに当たっての留意事項を示したものですが、実際には条文を修正するには至らなかったものの、これを附帯決議に盛り込む ことにより、その後の運用に国会として注文を付けるといった態様のものもみられます。附帯決議には、政治的効果があるのみで、法的効力はありません。
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厚生労働省資料 「新型インフルエンザ等対策特別措置法案」について」(資料3-1)
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r98520000026qek-att/2r98520000026qjk.pdf (2012年5月2日閲覧)
【国会審議】
3.30衆院本会議 http://www.youtube.com/watch?v=sCmtkAoGAH0
「新型インフルエンザ等対策特別措置法案」についての内閣委員会委員長の報告と採決は、5:27から8:12まで。
衆議院TV・ビデオライブラリ 内閣委員会 「新型インフルエンザ等対策特別措置法案」(180国会閣58)http://www.shugiintv.go.jp/jp/index.php?ex=VL&deli_id=41714&media_type=wb
参議院投票結果 http://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/vote/180/180-0427-v001.htm
4.27参議院本会議 http://www.youtube.com/watch?v=kOWjcy5Renc
「新型インフルエンザ等対策特別措置法案」についての内閣委員会委員長の報告と投票は、1:05から5:00まで。
【関連報道】 | |||
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(毎日新聞)
新型インフル法:参院で可決・成立 発生時に集会など制限(2012年04月27日 11時06分(最終更新 04月27日 11時15分)) http://mainichi.jp/select/news/20120427k0000e010177000c.html (2012年5月1日閲覧)(全文転載)
新型インフルエンザの感染防止を目的に、発生時に集会の制限などを可能にした特別措置法が27日午前の参院本会議で民主、公明などの賛成多数で可決、成立した。共産、社民は反対し、自民は2大臣問責後の審議拒否中に、法案が内閣委員会で採決されたことを理由に欠席した。内閣委では、人権が過度に制約されないよう求める付帯決議がされていた。
特措法は、危機管理法制である災害対策基本法や国民保護法がモデル。新型などが発生し、首相が国民生活 に大きな影響があると判断した場合、緊急事態(最長3年)を宣言。都道府県知事は▽多数の人が利用する施設使用・催し物の制限の指示▽医師への医療の指示 ▽臨時医療施設開設のための土地等の強制使用▽医薬品や食品を確保するための保管命令−−が可能になる。保管命令に業者などが従わなかった場合は罰則を設 けている。
また、知事は交通機関やNHKを含む指定公共機関に対し、緊急事態宣言の発令時に「総合調整」という権限に基づく「必要な指示」ができることになっている。
特措法は、危機管理法制である災害対策基本法や国民保護法がモデル。新型などが発生し、首相が国民生活 に大きな影響があると判断した場合、緊急事態(最長3年)を宣言。都道府県知事は▽多数の人が利用する施設使用・催し物の制限の指示▽医師への医療の指示 ▽臨時医療施設開設のための土地等の強制使用▽医薬品や食品を確保するための保管命令−−が可能になる。保管命令に業者などが従わなかった場合は罰則を設 けている。
また、知事は交通機関やNHKを含む指定公共機関に対し、緊急事態宣言の発令時に「総合調整」という権限に基づく「必要な指示」ができることになっている。
衆参内閣委での政府答弁によると、私権制限の期間は「発生初期など1〜2週間を想定」(中川正春・防災
担当相)。電車やバスは「間引き、状況に応じた運行の可能性はある」(中川担当相)。NHKについては「報道の内容を規制する構成になっていない」(園田
康博・内閣府政務官)。さらに、新聞社を含む報道機関に対して「取材の自粛要請は想定していない」(園田政務官)としている。
私権制限の規定があることから、日本弁護士連合会や日本ペンクラブが特措法に反対を表明。医療関係者からも効果を疑問視する声が上がっていた。【青島顕】
私権制限の規定があることから、日本弁護士連合会や日本ペンクラブが特措法に反対を表明。医療関係者からも効果を疑問視する声が上がっていた。【青島顕】
(転載終わり)
(毎日新聞)
新型インフル:特措法案 私権制限に慎重審議求める声
(2012年04月16日 20時51分) http://mainichi.jp/select/news/20120417k0000m040093000c.html (2012年5月1日閲覧)(全文転載)
新型インフルエンザの流行防止を目的とした特別措置法案が早ければ週内に成立する見通しとなっている。だが、集会禁止など私権制限が可能な内容で、日本医学会も慎重審議を求める声明を出すなど必要性や実効性を巡って異論が出ている。
法案は、新型インフルエンザなどが発生し首相が緊急事態宣言を出すと、都道府県知事の権限で医師への医療の指示、土地の強制使用などが可能になる。
112の医療関係の学会で組織する日本医学会は10日の声明で「国民の議論を踏まえ、慎重な審議、熟議 を尽くす」よう求めた。会長の高久史麿・東京大名誉教授は「医療の指示に従わなくても罰則はなく、学会として強く反対する理由はないが、個人としての意見 では『スペイン風邪』のようなパニックが日本で起きる可能性は少なく、法案は大げさに映る」と話す。09年に新型インフルエンザの国内侵入を防ぐため空港 で検疫を実施した「水際作戦」について、法案は対策強化を盛り込んだが、高久氏は「実効性が証明されなかった」と疑問視した。
(日本医学会)「新型インフルエンザ等対策特別措置法案に慎重な審議を求めます」(2012年4月10日) http://jams.med.or.jp/news/024.html (2012年5月1日閲覧)(全文転載)
本法律案は、病原性が高い新型インフルエンザや同様な危険性のある新感染症に対して、2009年のパンデミックインフルエンザの教訓も踏まえ、必要な法 制を整えておくために、政府行動計画等の策定、政府対策本部の設置等の措置、さらに新型インフルエンザ等緊急事態における特別な措置を定め、国民の生命お よび健康を保護し、国民生活及び国民経済に及ぼす影響が最小となるようにすることを目的としたもの、とされています。
1918年から1919年に流行が始まり、世界中で4,000万人の生命を奪ったとされるスペイン風邪(インフルエンザ)や2003年に突然発生した重 症急性呼吸器症候群(SARS)等、社会へ破壊的な影響をもたらす新たな感染症は歴史上の大きな教訓であり、決して備えを怠るべきではありません。一方、 2009年のパンデミックインフルエンザは、比較的病原性の低いウイルスだったという幸運もありましたが、治療法の進歩や我が国の医療制度、医療現場の卓 越性も大きな役割を果たしました。法制度の整備の前提として、広く国民的な議論が必要だと考えます。
本法案に対しては、日本弁護士連合会長が懸念を表明されております。広く国民の議論を踏まえた上で慎重な審議、熟議を尽くして頂きますようお願い申し上げます。
(転載終わり)
【関連ブログ】
塩川鉄也 「【内閣委員会】新型インフル特措法可決/慎重審議と国民的議論を」 (2012-03-28)http://www.shiokawa-tetsuya.jp/modules/kokkai/index.php?id=75(2012年5月2日閲覧)
はたともこ 新型インフルエンザ等対策特別措置法成立 ~参考人質疑と法案審査で質問~ (2012年04月29日) (2012年5月2日閲覧)
木村盛世オフィシャルWEBサイト 「新型インフルエンザ等対策特別措置法案は有害無益(他)」 http://www.kimuramoriyo.com/25-swine_influenza/20120316.html (2012年5月2日閲覧)
法案は、新型インフルエンザなどが発生し首相が緊急事態宣言を出すと、都道府県知事の権限で医師への医療の指示、土地の強制使用などが可能になる。
112の医療関係の学会で組織する日本医学会は10日の声明で「国民の議論を踏まえ、慎重な審議、熟議 を尽くす」よう求めた。会長の高久史麿・東京大名誉教授は「医療の指示に従わなくても罰則はなく、学会として強く反対する理由はないが、個人としての意見 では『スペイン風邪』のようなパニックが日本で起きる可能性は少なく、法案は大げさに映る」と話す。09年に新型インフルエンザの国内侵入を防ぐため空港 で検疫を実施した「水際作戦」について、法案は対策強化を盛り込んだが、高久氏は「実効性が証明されなかった」と疑問視した。
上(かみ)昌広・東京大医科学研究所特任教授(内科学)も「潜伏期のあるインフルエンザに水際作戦は意
味がない。(施設使用の制限に伴う)集会禁止も経済活動にデメリットが大きく、慎重にすべきだ。09年の反省にたち、政府の情報開示と、医療の支援を政治
に義務づける立法にすべきだ」と反対している。
一方、3月末まで国立感染症研究所感染症情報センター長を務めた岡部信彦・川崎市衛生研究所長は「流行 初期は不明なことが多く、津波に例えれば『逃げてください』でなく『逃げろ』という対応も必要」と私権の制限は不可避との立場。09年の経験から「現行の 厚生労働省所管の感染症法では不十分で、省庁横断で対応できる法制が必要だ」と話す。ただし「運用は慎重にすべきだ」という。
法案には日本弁護士連合会や日本ペンクラブが反対を表明している。【青島顕、井崎憲】
・医療関係者に医療等を行う指示(31条)
・指定公共機関(NHKなど)に対する「総合調整」に基づく措置実施の指示(33条)=※放送実施の指示などとみられる
(日本弁護士連合会)新型インフルエンザ等対策特別措置法案に反対する会長声明(2012年3月22日) http://www.nichibenren.or.jp/activity/document/statement/year/2012/120322.html (2012年5月1日閲覧)(全文転載)
(転載終わり)
(日本ペンクラブ)「新型インフルエンザ特措法」に反対する緊急声明(2012年3月30日) http://www.japanpen.or.jp/news/cat90/post_292.html(2012年5月1日閲覧)(全文転載)
一方、3月末まで国立感染症研究所感染症情報センター長を務めた岡部信彦・川崎市衛生研究所長は「流行 初期は不明なことが多く、津波に例えれば『逃げてください』でなく『逃げろ』という対応も必要」と私権の制限は不可避との立場。09年の経験から「現行の 厚生労働省所管の感染症法では不十分で、省庁横断で対応できる法制が必要だ」と話す。ただし「運用は慎重にすべきだ」という。
法案には日本弁護士連合会や日本ペンクラブが反対を表明している。【青島顕、井崎憲】
◇法案で行政ができる主な私権制限
・検疫のための病院・宿泊施設の強制使用(29条)・医療関係者に医療等を行う指示(31条)
・指定公共機関(NHKなど)に対する「総合調整」に基づく措置実施の指示(33条)=※放送実施の指示などとみられる
・多数の人が利用する施設使用や催し物開催の制限の指示(45条)
・臨時医療施設開設のため、土地等の強制使用(49条)
・緊急物資の運送・配送の指示(54条)
・医薬品・食品の収用・保管命令(55条)
(転載終わり)
【反対声明など】
・臨時医療施設開設のため、土地等の強制使用(49条)
・緊急物資の運送・配送の指示(54条)
・医薬品・食品の収用・保管命令(55条)
(転載終わり)
【反対声明など】
(日本弁護士連合会)新型インフルエンザ等対策特別措置法案に反対する会長声明(2012年3月22日) http://www.nichibenren.or.jp/activity/document/statement/year/2012/120322.html (2012年5月1日閲覧)(全文転載)
政府は、2012年3月9日、新型インフルエンザ等対策特別措置法案(以下、「本法案」という。)を国会に提出した。
本法案には、検疫のための病院・宿泊施設等の強制使用(29条5項)、臨時医療施設開設のための土地の強制使用(49条2項)、特定物資の収用・保管命令 (55条2項及び3項)、医療関係者に対する医療等を行うべきことの指示(31条3項)、指定公共機関に対する総合調整に基づく措置の実施の指示(33条 1項)、多数の者が利用する施設の使用制限等の指示(45条3項)、緊急物資等の運送・配送の指示(54条3項)という強制力や強い拘束力を伴う広汎な人 権制限が定められている。
このような人権制限は、その目的達成のために必要な最小限度にとどめられなければならないことはいうまでもないが、本法案においては、その必要性の科学的根拠に疑問がある上、人権制限を適用する要件も、極めて曖昧である。
すなわち、本法案の多くの人権制限の前提となる「新型インフルエンザ等緊急事態宣言」の要件は、「新型インフルエンザ等(国民の生命及び健康に著しく重大 な被害を与えるおそれがあるものとして政令で定める要件に該当するものに限る。以下この章において同じ。)が国内で発生し、その全国的かつ急速なまん延に より国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼし、又はそのおそれがあるものとして政令で定める要件に該当する事態」とされ、具体的要件は政令に委任し、法 律上は抽象的な定めがなされるにとどまっている。政府の新型インフルエンザ対策行動計画(2011年9月20日)によれば、新型インフルエンザの被害想定 の上限値は、受診患者数2500万人、入院患者数200万人、死亡患者数64万人という極めて大規模なものとされ、このような被害想定が、『万が一に備え る』との考え方により安易に用いられれば、本法案の上記要件を充足するものとたやすく判断されてしまうおそれがある。そもそも、この被害想定は、1918 年(大正7年)に発生したスペインインフルエンザからの推計であるが、当時と現在の我が国の国民の健康状態、衛生状況及び医療環境の違いは歴然としてお り、こうした推計に基づく被害想定が科学的根拠を有するものといえるのか疑問である。
また、新型インフルエンザ等緊急事態宣言に当たり定められる緊急事態措置の実施期間の上限を2年(32条2項)とし、更に1年の延長が可能としている(同 条3項)ことは、その人権制限の内容に照らして、長きに過ぎる。宣言後に緊急事態措置を実施する必要がなくなったときには速やかに解除宣言をするとされて いるが(同条5項)、これらの判断を政府に委ねるのみでは全く不十分である。新型インフルエンザ等緊急事態宣言には国会の事後承認を要するものとするとと もに、期間の上限はより短いものとし、国会の事前承認を延長の要件とすべきである。
さらに、個別の人権制限規定にも、多くの問題がある。
特に、多数の者が利用する施設の使用制限等(45条)は、集会の自由(憲法21条1項)を制限し得る規定であるが、その要件は、「新型インフルエンザ等の まん延を防止し、国民の生命及び健康を保護し、並びに国民生活及び国民経済の混乱を回避するため必要があると認めるとき」(45条2項)という抽象的かつ 曖昧なものであり、その対象も、「政令で定める多数の者が利用する施設」とされているのみで、極めて広範な施設に適用可能な規定となっている。
他方で、一時的な集会などを制限することが感染拡大の防止にどの程度効果があるのかについては十分な科学的根拠が示されておらず、効果が乏しいとの意見も あるところであり、制限の必要性にも疑問がある。そのため、感染拡大の防止という目的達成に必要な最小限度を超えて集会の自由が制限される危険性が高い。
また、指定公共機関に対する総合調整に基づく措置の実施の指示(33条1項)は、日本放送協会(NHK)が指定公共機関とされ(2条6号)、民間放送事業 者も政令により指定公共機関とされ得る(同号)ことから、これら放送事業者の報道の自由(憲法21条1項)を制限し得る規定であるが、その要件である「第 20条第1項の総合調整に基づく所要の措置が実施されない場合」にいう総合調整の内容は全く不明確であり、また、なし得る指示の内容についても、「必要な 指示をすることができる」とされ、具体的な限定は全くなされていない。表現の自由に対する規制が可能な条文としては、曖昧に過ぎるといわざるを得ない。む しろ、本法案の適用により国民の人権が広範囲に制約されることに鑑みれば、法適用の根拠及び各措置の結果等については随時全面的に情報開示を行い、専門家 らを含む第三者が広く検証できるようにすべきである。
当連合会は、去る3月2日の会長声明で、 本法案に先立って公表された「新型インフルエンザ対策のための法制のたたき台」に対し、2009年に発生したA型H1N1型インフルエンザに対し、その危 険性が不明な時点で「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」上の「新型インフルエンザ等感染症」に該当するとし、その危険性が季節性イ ンフルエンザと同程度であることが判明した後も適用を続けられたという経緯にも鑑み、新型インフルエンザ特措法についても、その拡大適用が懸念されること を指摘して、慎重な検討を求め、性急な立法を目指すことに反対を表明した。しかるに、本法案は、上記のとおり、科学的根拠に疑問がある上、人権制限を適用 する要件も極めて曖昧なまま、各種人権に対する過剰な制限がなされるおそれを含むものである。
よって、当連合会は、本法案に反対の意を表明する。
本法案には、検疫のための病院・宿泊施設等の強制使用(29条5項)、臨時医療施設開設のための土地の強制使用(49条2項)、特定物資の収用・保管命令 (55条2項及び3項)、医療関係者に対する医療等を行うべきことの指示(31条3項)、指定公共機関に対する総合調整に基づく措置の実施の指示(33条 1項)、多数の者が利用する施設の使用制限等の指示(45条3項)、緊急物資等の運送・配送の指示(54条3項)という強制力や強い拘束力を伴う広汎な人 権制限が定められている。
このような人権制限は、その目的達成のために必要な最小限度にとどめられなければならないことはいうまでもないが、本法案においては、その必要性の科学的根拠に疑問がある上、人権制限を適用する要件も、極めて曖昧である。
すなわち、本法案の多くの人権制限の前提となる「新型インフルエンザ等緊急事態宣言」の要件は、「新型インフルエンザ等(国民の生命及び健康に著しく重大 な被害を与えるおそれがあるものとして政令で定める要件に該当するものに限る。以下この章において同じ。)が国内で発生し、その全国的かつ急速なまん延に より国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼし、又はそのおそれがあるものとして政令で定める要件に該当する事態」とされ、具体的要件は政令に委任し、法 律上は抽象的な定めがなされるにとどまっている。政府の新型インフルエンザ対策行動計画(2011年9月20日)によれば、新型インフルエンザの被害想定 の上限値は、受診患者数2500万人、入院患者数200万人、死亡患者数64万人という極めて大規模なものとされ、このような被害想定が、『万が一に備え る』との考え方により安易に用いられれば、本法案の上記要件を充足するものとたやすく判断されてしまうおそれがある。そもそも、この被害想定は、1918 年(大正7年)に発生したスペインインフルエンザからの推計であるが、当時と現在の我が国の国民の健康状態、衛生状況及び医療環境の違いは歴然としてお り、こうした推計に基づく被害想定が科学的根拠を有するものといえるのか疑問である。
また、新型インフルエンザ等緊急事態宣言に当たり定められる緊急事態措置の実施期間の上限を2年(32条2項)とし、更に1年の延長が可能としている(同 条3項)ことは、その人権制限の内容に照らして、長きに過ぎる。宣言後に緊急事態措置を実施する必要がなくなったときには速やかに解除宣言をするとされて いるが(同条5項)、これらの判断を政府に委ねるのみでは全く不十分である。新型インフルエンザ等緊急事態宣言には国会の事後承認を要するものとするとと もに、期間の上限はより短いものとし、国会の事前承認を延長の要件とすべきである。
さらに、個別の人権制限規定にも、多くの問題がある。
特に、多数の者が利用する施設の使用制限等(45条)は、集会の自由(憲法21条1項)を制限し得る規定であるが、その要件は、「新型インフルエンザ等の まん延を防止し、国民の生命及び健康を保護し、並びに国民生活及び国民経済の混乱を回避するため必要があると認めるとき」(45条2項)という抽象的かつ 曖昧なものであり、その対象も、「政令で定める多数の者が利用する施設」とされているのみで、極めて広範な施設に適用可能な規定となっている。
他方で、一時的な集会などを制限することが感染拡大の防止にどの程度効果があるのかについては十分な科学的根拠が示されておらず、効果が乏しいとの意見も あるところであり、制限の必要性にも疑問がある。そのため、感染拡大の防止という目的達成に必要な最小限度を超えて集会の自由が制限される危険性が高い。
また、指定公共機関に対する総合調整に基づく措置の実施の指示(33条1項)は、日本放送協会(NHK)が指定公共機関とされ(2条6号)、民間放送事業 者も政令により指定公共機関とされ得る(同号)ことから、これら放送事業者の報道の自由(憲法21条1項)を制限し得る規定であるが、その要件である「第 20条第1項の総合調整に基づく所要の措置が実施されない場合」にいう総合調整の内容は全く不明確であり、また、なし得る指示の内容についても、「必要な 指示をすることができる」とされ、具体的な限定は全くなされていない。表現の自由に対する規制が可能な条文としては、曖昧に過ぎるといわざるを得ない。む しろ、本法案の適用により国民の人権が広範囲に制約されることに鑑みれば、法適用の根拠及び各措置の結果等については随時全面的に情報開示を行い、専門家 らを含む第三者が広く検証できるようにすべきである。
当連合会は、去る3月2日の会長声明で、 本法案に先立って公表された「新型インフルエンザ対策のための法制のたたき台」に対し、2009年に発生したA型H1N1型インフルエンザに対し、その危 険性が不明な時点で「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」上の「新型インフルエンザ等感染症」に該当するとし、その危険性が季節性イ ンフルエンザと同程度であることが判明した後も適用を続けられたという経緯にも鑑み、新型インフルエンザ特措法についても、その拡大適用が懸念されること を指摘して、慎重な検討を求め、性急な立法を目指すことに反対を表明した。しかるに、本法案は、上記のとおり、科学的根拠に疑問がある上、人権制限を適用 する要件も極めて曖昧なまま、各種人権に対する過剰な制限がなされるおそれを含むものである。
よって、当連合会は、本法案に反対の意を表明する。
2012年(平成24年)3月22日
日本弁護士連合会
会長 宇都宮 健児
会長 宇都宮 健児
(転載終わり)
(日本ペンクラブ)「新型インフルエンザ特措法」に反対する緊急声明(2012年3月30日) http://www.japanpen.or.jp/news/cat90/post_292.html(2012年5月1日閲覧)(全文転載)
●「新型インフルエンザ特措法」に反対する緊急声明
「新型インフルエンザ特措法」に反対する緊急声明
政府は「新型インフルエンザ等対策特別措置法」を三月六日に閣議決定し、今国会での成立をめざしています。
しかし、その内容は、感染症対策に名を借り、国民の基本的人権、移動や集会の自由、言論・表現の自由を一方的に制限するなど、あまりに重大な問題を含んで います。要綱段階で出された反対意見を踏まえ、法案では一部文言の修正がはかられましたが、法案が有する問題点はまったく解消されていません。
例えば、同法案は、世界保健機関(WHO)が新型インフルエンザの流行を確認した場合、首相が緊急事態宣言を発することができるとし、都道府県知事に対し て、住民の外出制限、公共・商業施設の使用制限、集会等の中止を求める権限を与えています。さらに、住民に対して強制的な予防接種も行えるとしています。
これは、事実上、超法規的な戒厳令であるにもかかわらず、この発動の要件は政令で定めるとされており、厚生労働省の一部の決定のみで私たちの生存と権利と自由を制限することを可能としています。
新型インフルエンザへの対応は不可欠ですが、誰もが当事者となりうる事態に冷静に対処するためには、危険性の実態や進行の段階、その対処の仕方など、確実 で透明性の高い情報の公開が必要であることは、先の福島第一原発事故の教訓であったはずです。その際に見せた〈政〉と〈官〉の不手際を検証もせず、いたず らに危機感をあおり、危機管理対策のみを突出させた本法案を制定することは、新型インフルエンザの対策にならないばかりか、民主主義の諸原理を蹂躙するも のと言わざるを得ません。
日本ペンクラブは、政府がこの法案を撤回し、国民が新型インフルエンザ対策として熟議し、合意形成できる内容に根本的に改めるよう、強く要望します。
しかし、その内容は、感染症対策に名を借り、国民の基本的人権、移動や集会の自由、言論・表現の自由を一方的に制限するなど、あまりに重大な問題を含んで います。要綱段階で出された反対意見を踏まえ、法案では一部文言の修正がはかられましたが、法案が有する問題点はまったく解消されていません。
例えば、同法案は、世界保健機関(WHO)が新型インフルエンザの流行を確認した場合、首相が緊急事態宣言を発することができるとし、都道府県知事に対し て、住民の外出制限、公共・商業施設の使用制限、集会等の中止を求める権限を与えています。さらに、住民に対して強制的な予防接種も行えるとしています。
これは、事実上、超法規的な戒厳令であるにもかかわらず、この発動の要件は政令で定めるとされており、厚生労働省の一部の決定のみで私たちの生存と権利と自由を制限することを可能としています。
新型インフルエンザへの対応は不可欠ですが、誰もが当事者となりうる事態に冷静に対処するためには、危険性の実態や進行の段階、その対処の仕方など、確実 で透明性の高い情報の公開が必要であることは、先の福島第一原発事故の教訓であったはずです。その際に見せた〈政〉と〈官〉の不手際を検証もせず、いたず らに危機感をあおり、危機管理対策のみを突出させた本法案を制定することは、新型インフルエンザの対策にならないばかりか、民主主義の諸原理を蹂躙するも のと言わざるを得ません。
日本ペンクラブは、政府がこの法案を撤回し、国民が新型インフルエンザ対策として熟議し、合意形成できる内容に根本的に改めるよう、強く要望します。
ニ〇一ニ年三月三〇日
日本ペンクラブ会長 浅田次郎
(転載終わり)
(日本医学会)「新型インフルエンザ等対策特別措置法案に慎重な審議を求めます」(2012年4月10日) http://jams.med.or.jp/news/024.html (2012年5月1日閲覧)(全文転載)
平成24年4月10日
日本医学会長
髙久 史麿
髙久 史麿
新型インフルエンザ等対策特別措置法案に慎重な審議を求めます
新型インフルエンザ等対策特別措置法案が国会で審議中ですが、法の整備に十分な議論を尽くされますようお願いいたします。本法律案は、病原性が高い新型インフルエンザや同様な危険性のある新感染症に対して、2009年のパンデミックインフルエンザの教訓も踏まえ、必要な法 制を整えておくために、政府行動計画等の策定、政府対策本部の設置等の措置、さらに新型インフルエンザ等緊急事態における特別な措置を定め、国民の生命お よび健康を保護し、国民生活及び国民経済に及ぼす影響が最小となるようにすることを目的としたもの、とされています。
1918年から1919年に流行が始まり、世界中で4,000万人の生命を奪ったとされるスペイン風邪(インフルエンザ)や2003年に突然発生した重 症急性呼吸器症候群(SARS)等、社会へ破壊的な影響をもたらす新たな感染症は歴史上の大きな教訓であり、決して備えを怠るべきではありません。一方、 2009年のパンデミックインフルエンザは、比較的病原性の低いウイルスだったという幸運もありましたが、治療法の進歩や我が国の医療制度、医療現場の卓 越性も大きな役割を果たしました。法制度の整備の前提として、広く国民的な議論が必要だと考えます。
本法案に対しては、日本弁護士連合会長が懸念を表明されております。広く国民の議論を踏まえた上で慎重な審議、熟議を尽くして頂きますようお願い申し上げます。
(転載終わり)
【関連ブログ】
塩川鉄也 「【内閣委員会】新型インフル特措法可決/慎重審議と国民的議論を」 (2012-03-28)http://www.shiokawa-tetsuya.jp/modules/kokkai/index.php?id=75(2012年5月2日閲覧)
はたともこ 新型インフルエンザ等対策特別措置法成立 ~参考人質疑と法案審査で質問~ (2012年04月29日) (2012年5月2日閲覧)
木村盛世オフィシャルWEBサイト 「新型インフルエンザ等対策特別措置法案は有害無益(他)」 http://www.kimuramoriyo.com/25-swine_influenza/20120316.html (2012年5月2日閲覧)
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